とても印象に残っているクラスメートがいる。
私の中学の運動会では毎年クラス対抗でバスケットやバレーボールなどをやっていた。
こういうのは女子でも張り切る人はいるのだが、男子のスポーツを得意とする人の中には異様なまでの拘りを見せる人がいる。
男子はスポーツマンでグループを形成していて、そのグループはクラスの中で一定の力を持っている。
私の学校の運動会は参加競技を自分で選べたので、そのスポーツマングループがそのままチームになっていた。
だが、スポーツマンとよく一緒にいてスポーツマングループに所属しているようでも、それほどスポーツが得意という訳ではない人もいた。
彼のことをSとしよう。
そのスポーツマングループは、運動会でバスケットボールのチームを作ることになっていた。
Sもその一員だ。
スポーツマングループのリーダー格はなんだか知らないけどどうしても勝ちたいらしい。
そんな中、Sは自分がそれほど貢献できないであろうことにプレッシャーを感じていたのだと思う。
ある時、Sがスポーツマングループの他の人たちに対し、こう言っていた。
S「俺、反則で頑張るわ」
はっきりそう言っていた。
少なくともその場面を2回見かけた。
だが、それに対してスポーツマン達は何も答えなかった。
おそらくそれ以前にも話していて認識していたが、自分達が指示していると思われたくないから何も答えなかったのだろう。
しかし、反則で頑張ると言ってももちろん審判はいる。
何をどう頑張るつもりなのだろうか。
いや、結局大したことはできないだろう。
私はそれが冗談だと思い、聞き流していた。
だが、試合のときになって驚いた。
これはただの学校内のどうでもいい行事。
審判がいるといってもやっているのは先生か生徒、つまり素人だ。
バスケットボールならどうしてもボールを持っている人に意識が集中してしまう。
Sはその裏をつき、ボールと少し離れたところにいる相手チームのキープレーヤーに堂々としがみつき、ボールに近づけないよう動きを封じていた。
私も最初は気がつかなかったが、ゲーム中盤にふとSのことが気になって見たときに分かった。
相手チームのキープレーヤーがボールのところに来れないので、自分達のチームのボス達はたくさん点を取って活躍していた。
相手チームのキープレーヤーは当然Sに怒っていたが、Sはやめない。
審判にも訴えていたが、Sは審判が見ているときにはしがみつくのをやめる。
そして審判がまたボールに集中し始めるとまたしがみつく、ということを繰り返していた。
彼のことを卑怯だと思うかもしれない。
いや、卑怯なのは卑怯だ。
だが、私はむしろ感心してしまった。
通常であれば自分が活躍したいはずなのに、ここまでチームに滅私奉公するとは。
私はSとは特に親しくなかったが、Sは割と人を傷つけないタイプに見えた。
クラスには他人の悪口ばかり言う人が多かったので、Sはむしろ優しい人に見えた。
一方で、学校の運動会のシステムの裏をつくこの狡猾さと行動力。
こいつは超小物に見えて実は超大物なのかもしれない。
想像するに、彼にとってスポーツマングループにいることはある種のステータスだったのかもしれない。
あるいは、スポーツマングループに気に入られておかないといじめられるという恐れがあった可能性もある。
何かしらどうしても気に入られる必要があり、ただの学校内の行事にも関わらず反則に手を染めたのかもしれない。
だが、相手チームには確実に嫌われる。
審判は気づいていなくても、見学中の生徒は何人もいる。
もちろん、相手のクラスの中にも気づいている人もいた。
これが嫌われる勇気というやつか。
スポーツマングループの価値は社会人になると激減する。
スポーツをする機会などほとんど無くなるからだ。
あのとき、Sはスポーツマンにいいように使われていたのかもしれない。
ただ、Sとしても卒業してしまえばあのグループのメンバーはもう要済み。
今となっては興味もないだろう。
Sくん、彼は大物になっているだろうか。